おんづ屋

いつかの四月初日

「今日は4月1日だな」 「ああ、そうだけど。どうした?」 「実は俺、妹がいるんだ。いや、出来たというべきか」 「は?」 「アヤタへ報告が遅れて申し訳ないな」 「えっ、あっ、そうなんだ。おめでとう。ならお祝いとか渡すべきだよな」 「ありがとう。ちなみに今日は4月1日だぞ」 「だから、それがなんだって……あのさ、もしかして」 「良かった。アヤタはエイプリルフール知らないのかと」 「それぐらいは知ってるけど、さっきの嘘はわかりづらいな!」 「そりゃ、嘘か本当かわかりにくいように一晩考えたからな」 「なおさらしょうもない嘘を吐く必要ないだろ」 「ささやかな灯影院ジョークだ」 「残念ながら普通につまんなかったぞ」 「うっ! そこまで言うんだったら、アヤタが抱腹絶倒の面白い嘘を披露してくれるんだよな?」 「なんでだよ。嫌だ。大体、エイプリルフールだからって嘘を付く理由が見当たらないんだけど」 「今日のアヤタはノリが悪いな。理由なんて一つしかないだろ」 「なんだよ」 「嘘を堂々と言えるからだ」 「へえ」 「もうちょっと興味持ってくれよ。世界中の嘘が受け入れられて、真が嘘になる日なんて、この日しかないんだぞ。すごいと思わないか」 「壮大な理由を挙げたのはいいけど、それと僕が面白い嘘を言う理由がまったく繋がらないぞ。絶対今さっき考えただろ」 「それはさておき。アヤタ、そろそろ爆笑必至の嘘思い付いたか」 「露骨に逃げたな! というか最初から嘘って言ったら意味がないと思うんだけど」 「おいおい、遠慮するなよ。エントリーナンバー2番、田中綾高くん。さあ、どうぞ!」 「ええー、もう突っ込むのも面倒になってきた……。じゃあ、実は僕は宇宙人でした、とか」 「そうだったのか。確かにいわれてみれば宇宙人っぽくみえてきた」 「いや、嘘だからな」 「ということは地球外生命体なんだよな。何か宇宙人らしいこと見せてくれないか。地球人に理解できる範囲でいいから」 「だから、嘘だって」 「そうなると、身体の構造も人間と違うのか。ちょっと、しっかり見てみたいなあ」 「なんか恥ずかしくなってきたからマジでやめろ」 「まあ、ありきたりだったし、もうちょっとリアリティのある嘘の方がいいと思うぞ」 「かといって冷静に批評しないでくれ。この話、お前が振ったんだからな」 「想像してたより受けが悪いからって、責任転嫁はよくないぞ」 「そんなこと考えてすらいないけど、正直灯影院の嘘のレベルとそれほど変わらないと思うよ」 「酷いこというな」 「それはこっちの台詞だ」

(初出: 2018年エイプリルフール)

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