大好きなあなたへ最後の告白
一緒にいると苦しいなんて、そんなことはずっと前から感じていた。そもそも初めて会ったときから望むべきではない恋だった。例え片想いでも、危険な恋だった。相手の幸せのためにも、自分が傷付かないためにも。
それなのに、想いが伝えてしまったのが天罰の理由かもしれない。衝動に突き動かされながらも半ば諦めるための言葉だった。嫌われて、嫌いになれれば良かった。実際そんなことができないと分かっていても、距離を取って燻ぶる心を鎮火するぐらいは慣れている。表情を、感情を繕うことは嫌でも得意になった。そうやって抱えた気持ちを少しずつ風化させようと、努力してきた。努力するつもりだった。
しかし予想は裏切られた。ぽかんとした顔と小さく洩れた二文字を鮮明に記憶している。その言葉に舞い上がりそうなぐらい嬉しくて、夢かと疑いたくなったのもはっきりと覚えている。その一方で冷静な自分がため息を吐いた音を聴いた。相手を道連れにするつもりなのか。それで本当に幸せになれると思っているのか。目の前の恋人が発した台詞に驚いている姿がどこか羨ましくて、風呂場に逃げ込んだ。暗い考えをシャワーで流してしまいたかった。
​ 良くも悪くも流されやすくて、優しくて、鈍感で。そんなところに惹かれていたのに、今ではそれらに苦しめられている。好きであればあるほど、隠し事が増えていく。好き合えば、それだけで幸せといえる関係になりたかった。でもきっと叶わないことも、薄々は感付いていた。それでも見ないふりをしていたのは、どんな形でも恋人でありたかったからだ。一緒に暮らしているだけで喜べて、多少の問題があっても頑張ろうと思えた。 けれどあの夜、ちずさんと抱き合っているのを見て確信した。 俺はたくさんの人に想われているあなたの未来を、奪ってしまうのではないか。今ならまだなかったことにして、引き返せるだろうと。 告白して中途半端に付き合わせておいて、どこまでも自分勝手なのは理解している。 ただ、安心したかったのだ。何があっても、離れないでいてくれることを示してほしかった。あなたは優しいから、あの時頷いてくれたようにどこかに行ってしまうのではないかと、隣に居れば居るほど不安が募っていった。 だって、俺らは結婚できない。両親に孫の顔を見せてやることはできないし、世間へ堂々としていることでさえ、まだ許されていない。 俺なんかじゃ、幸せにできない。 それでいつかあなたが苦しむことになるのなら、どうするべきかなんて一つしかなくて。たった一言、ただ全てが終わってしまえばいいと願った。 「俺は、春田さんのことなんか」
おれはほんとうによわいから。