おんづ屋

Loved By?

​ だんだんと残暑が落ち着いてきて、蝉も静かになってきた初秋の頃。僕にはいまだ納得できないことがある。それはどうして僕のところばかりに変人が集まってくるかだったり、勉強はしているはずなのに成績が全然伸びない現実だったり、なんやかんやでこの生活に慣れてしまったことなど、挙げればきりがない。だけどここ最近頭の中を占めているのが、花鳥くんの態度だったりしてしまうから問題なのだ。

 彼の暗黒破壊神や光と闇の騎士と名乗る、生粋の中二病は依然として鳴りを潜める気配が見えない。むしろ悪化しているのではないか。ごくごく普通の高校生である僕を捕まえて、前世からの相棒だと根拠の欠片もない理由で振り回すのはやめてほしい。何が「氷上の祈禱師ゲシュテーバー」だ。明らかに僕の名前を見てから考えたんだろ。花鳥くんだって、同じ。本当は前世なんかないことを、二つ名を付ける彼自身が証明している。 ​ こんな運命なんて信じない。だから僕は花鳥くんとのきっかけらしきものは何度も訊いてきた。それでも最終的に纏わりつく理由としては違和感を拭えない。僕がたとえ力を持った友達を望んでいたことがわかっても、それは花鳥くんが僕を知ったエピソードの一つに過ぎない。けしかけた月宮くんが花鳥くんにとって大きな存在だったから、本気で信託だと思っているのか。繋ぐものがなんとも不安定だと気付くたびに、心はざわつく。 ​ 「小雪芹」と「ゲシュテーバー」。彼にとってはどちらが大事か。馬鹿らしい疑問に笑ってしまった。中二病ごっこに付き合ってくれる人なら、誰だって好きになるのだろう。初対面である奏兄にだって懐いていた。別次元への花鳥くんの入れ込みようは呆れるくらいに真剣だ。僕が「本当は前世からの相棒ではない」という真実一つで、倒れてしまうとは想像がつくはずなかった。 ​ だからこそ、花鳥くんがそこまで一人の人間へ執着するのか理解できない。他の人には多少距離感を持っているように見えるのに。べったりとして盲目的だと錯覚してしまうほどに、僕のことで照れて笑って怒って泣いて。それらすべての行動を「運命的な友情」で片付けてしまうだろう彼が、怖かった。そして、そのことを意識し始めた自分が信じられずにいる。 ​ 一応言っておくが、間違っても花鳥くんとどうにかなりたい訳ではない。僕は澄楚さんのことが好きで、花鳥くんはやたらと構われようとしてくる友達。それ以上でもそれ以下でもない。そうじゃないとおかしいに決まっている。 ​ 今になって考えてしまったのも、ここまであからさまに好意を示されるのに慣れていないからだろう。手作りのアクセサリーやチョコレートも友情の形なのだと言い聞かせる。全部、世界でたった一人の相棒へ送るには妥当なのだ。だから受け取ってしまったものの意味を振り返ってはいけない。

 夢の中、「大好き」が眩しく響くせいで上手に眠れなくなっていたとしても。

#BL #text #ぼくはか #花芹